藤沢数希「ぼくは愛を証明しようと思う。」

藤沢数希「ぼくは愛を証明しようと思う。」を読んだ。
http://goo.gl/7KQR9J

一見するとナンパのテクニック集のように見えるが、
恋愛をアカデミックなアプローチで分析した、理論物理学研究者出身の著者らしい一冊である。

ナンパのテクニックは数多ある。
例えば、「タイム・コンストレイント・メソッド」。
女性を誘う際、例えば「あと30分で行かなきゃならないんだけど、それまで一緒に飲まない?」といったように、自ら時間の制約を提示した上で誘う手法だ。
なぜこの手法が有効なのか。本書はその背後にある論理まで深く掘り下げている点で、単なるテクニック集とは一線を画す。

そもそも人はなぜ恋愛をするのか。
必ずしも本書に明示的に記載されているわけではないが、本書や著者のメルマガを読んだ上で僕が読み取った著者の論理は以下のとおりである(そう、僕は「週刊金融日記」の購読者なのです)。

人間の遺伝子には、他の動物と同じように、「種の保存」が刻み込まれている。
子孫を残すために、男は射精をし、女は妊娠・出産をする。
そうすると、男がその役割を果たすべく取る戦略は、とにかく色々な女に対して射精をすることである。
その一方で、妊娠・出産には相当の時間・負担がかかるし、肉体的な限界も男と比較すると早期に到来する。となると、女は、なるべく慎重に男を品定めをし、優秀な精子のみを受け入れる戦略を取ることになる。
こうして、男と女の戦略はぶつかり合い、その過程で起きる様々な現象が恋愛である。

もちろんこれは石器時代の話であり、現代においては、必ずしも種の保存のためだけに性交渉を行うわけではない。避妊の手法も確立されている。
しかし、我々の脳の奥底は未だに石器時代のままであり、男と女は、現代に至ってもなお、上記の戦略のとおりに行動している。女は、男の顔やしぐさから、優秀な遺伝子を持つ男を選別しようとしているのである。

さて、冒頭の「タイム・コンストレイント・メソッド」。
女は、上記戦略のとおり、劣等な男の精子を受け入れるわけにはいかない。誘ってきた男が劣等であった場合、女としては、何としても男の精子を受け入れることを回避しなければならない。男は女よりも力が強い。女は不安なのだ。そうした状況で、男が自ら時間的制約を提示することで、女は安心するのだ。

この論理が正しいのかどうかは分からない。
しかし、「タイム・コンストレイント・メソッド」が有効であるという現象は実際に起きている。
そうであれば、その背後にある論理を探るのが研究者として自然な姿勢であり、本書ではその論理がうまく説明できている。
本書をナンパ本と位置付けるのはあまりにも浅薄だ。
本書は小説の形式をとった学術論文なのである。


そして、主人公のワタナベ君は弁理士である。
特許関係者にとって必読の一冊であることは間違いない。
https://twitter.com/ipbooks/status/615326697345392640