社内の職務発明規程

少し前ですが、改正特許法が成立しました(7月3日)。
https://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/pdf/tokkyohoutou_kaiei_270710/02.pdf
内容は、以下のとおりです。
職務発明制度の見直し
②特許料等の改定
③特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約の実施のための規定の整備

この中でも、影響力が大きいのが①、②でしょう。
実務家として直接影響が大きいのは②でしょうね。
何といってもお金ですからね。

ですが、世の中を騒がせていたのはご存じのとおり①です。
これについては、様々なところで取り上げられているので概要は割愛します。


「特許法等の一部を改正する法律」の概要
https://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/pdf/tokkyohoutou_kaiei_270710/02.pdf


要するには、発明をした時に発生する「特許を受ける権利」をはじめから法人帰属とすることができるようになったのですが、
改正後でも、従前どおり、発明者帰属とすることもできるとされています(以下の報告書参照)


我が国のイノベーション促進及び国際的な制度調和のための知的財産制度の見直しに向けて(平成27年1月)
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/toushintou/pdf/innovation_patent/houkokusho.pdf


僕としてはあまり手間をかけたくないので、
社内の職務発明規程を修正せずに使い続ける(つまり、法改正後も発明者帰属のままとする)のもアリと考えているのですが、
その場合でも、社内の面倒な手続きが発生しそうです。その理由は以下のとおりです。

条文上必ずしも明らかではないですが、新35条4項の「職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ」の「権利の取得」には、承継取得も含まれるのだと思います。
そうだとすると、従業者は「相当の利益」(インセンティブ)を受ける権利を有することになりますが(新35条4項)、従前の、発明者への支払いをもって「相当の利益」としたいところです。
なるべく手間をかけたくないですし。
しかし、インセンティブについては、新35条6項の指針の手順に従って、使用者は、従業者と調整を行うこととされており(上述の報告書参照)、
この調整が必要になるのですよね。(よく分かりませんが、労働組合と調整することになるのでしょうか?)
まぁ、今までと支払額に変わりがなければ特に反発は無いと思いますが、
支払額の増額やパイオニア発明に対応するための条項の追加などを従業者側が求めた場合、調整が難航しそうですね。

とりあえずは指針の公表を待ちましょう。
このブログによると、指針は年内に公表のようですね。 

藤沢数希「ぼくは愛を証明しようと思う。」

藤沢数希「ぼくは愛を証明しようと思う。」を読んだ。
http://goo.gl/7KQR9J

一見するとナンパのテクニック集のように見えるが、
恋愛をアカデミックなアプローチで分析した、理論物理学研究者出身の著者らしい一冊である。

ナンパのテクニックは数多ある。
例えば、「タイム・コンストレイント・メソッド」。
女性を誘う際、例えば「あと30分で行かなきゃならないんだけど、それまで一緒に飲まない?」といったように、自ら時間の制約を提示した上で誘う手法だ。
なぜこの手法が有効なのか。本書はその背後にある論理まで深く掘り下げている点で、単なるテクニック集とは一線を画す。

そもそも人はなぜ恋愛をするのか。
必ずしも本書に明示的に記載されているわけではないが、本書や著者のメルマガを読んだ上で僕が読み取った著者の論理は以下のとおりである(そう、僕は「週刊金融日記」の購読者なのです)。

人間の遺伝子には、他の動物と同じように、「種の保存」が刻み込まれている。
子孫を残すために、男は射精をし、女は妊娠・出産をする。
そうすると、男がその役割を果たすべく取る戦略は、とにかく色々な女に対して射精をすることである。
その一方で、妊娠・出産には相当の時間・負担がかかるし、肉体的な限界も男と比較すると早期に到来する。となると、女は、なるべく慎重に男を品定めをし、優秀な精子のみを受け入れる戦略を取ることになる。
こうして、男と女の戦略はぶつかり合い、その過程で起きる様々な現象が恋愛である。

もちろんこれは石器時代の話であり、現代においては、必ずしも種の保存のためだけに性交渉を行うわけではない。避妊の手法も確立されている。
しかし、我々の脳の奥底は未だに石器時代のままであり、男と女は、現代に至ってもなお、上記の戦略のとおりに行動している。女は、男の顔やしぐさから、優秀な遺伝子を持つ男を選別しようとしているのである。

さて、冒頭の「タイム・コンストレイント・メソッド」。
女は、上記戦略のとおり、劣等な男の精子を受け入れるわけにはいかない。誘ってきた男が劣等であった場合、女としては、何としても男の精子を受け入れることを回避しなければならない。男は女よりも力が強い。女は不安なのだ。そうした状況で、男が自ら時間的制約を提示することで、女は安心するのだ。

この論理が正しいのかどうかは分からない。
しかし、「タイム・コンストレイント・メソッド」が有効であるという現象は実際に起きている。
そうであれば、その背後にある論理を探るのが研究者として自然な姿勢であり、本書ではその論理がうまく説明できている。
本書をナンパ本と位置付けるのはあまりにも浅薄だ。
本書は小説の形式をとった学術論文なのである。


そして、主人公のワタナベ君は弁理士である。
特許関係者にとって必読の一冊であることは間違いない。
https://twitter.com/ipbooks/status/615326697345392640

 

知的財産推進計画2015

少し前ですが、知財推進計画2015が決定しましたね。


知的財産推進計画2015(平成27年6月19日決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20150619.pdf


「知的財産推進計画」というのは、内閣に設置された「知的財産戦略本部」が、毎年この時期に出しているものです。政府が取り組んでいく知財関連のトピックが挙げられているので、これを読めば、今後のホットトピックが分かるというわけです。

そして今年の推進計画では、重点3本柱として、以下3つが挙げられています。
1.地方における知財活用の推進
2.知財紛争処理システムの活性化
3.コンテンツ及び周辺産業との一体的な海外展開の推進

特許に関係するのは、1.と2.ですね。個人的には、2.が目新しいように思います。というのも、今までは、権利化関連のトピックが中心で(審査期間短縮、審査の質向上、海外特許庁との協力…etc)、紛争処理については軽く触れられる程度だったのが、今年は紛争処理について結構踏み込んでいるからです。
本件については、「知的財産戦略本部」の下に作られた「知財紛争処理タスクフォース」で議論がなされていて、ここでの議論をまとめた「知財紛争処理タスクフォース報告書」の内容が、今回の推進計画にも盛り込まれています。


知財紛争処理タスクフォース報告書(平成27年5月28日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/tf_chiizai_houkoku.pdf


議論された項目は以下のとおりで、なかなか興味深そうですね。例えば、(1)とか、米国のディスカバリ制度を導入したりすることになるのでしょうか。さすがに、米国でもディスカバリ制度の負担の大きさが問題になっているので、そのまま導入ということは無いとは思いますが。まだ報告書をしっかり読んでいないので、次回以降、もう少し踏み込んでみたいと思います。
(1)証拠収集手続
(2)損害賠償請求
(3)差止請求権
(4)権利の安定性
(5)情報公開・海外発信
(6)知財司法アクセス


正直、僕みたいな権利化業務がメインの者にとっては、別にこの手の話はフォローしなくても業務は回るんだよね…。まぁ、でも飲み会の時の話題作りってことで。

はじめに

僕は、特許業界で働く平均的なサラリーマンだ。
都内の国立大学の工学部を卒業して、大学院も修了した。
新卒で特許業界に就職した。研究の世界は向いていないと思ったし、文系就職ではせっかく修士まで取ったのにもったいないと思ったからだ。よくある志望動機だ。

このブログでは、自分の頭の整理も兼ねて、特許関連のトピックについて書こうと思う。特許業界は狭い世界だが、他の業界と同じように、法律、技術、国際、技術移転、…と専門が細分化されていて、フォローすべきトピックは色々とある。ついついフォローを怠ってしまうので、情報のアウトプットの場としてこのブログを活用して、インプットのモチベーションを高めたいと思う。

トピックの数だけキャリアもある。思い付くだけでも、知財系弁護士、弁理士、企業知財部員、大学教員、TLO職員、など様々である。特許業界におけるキャリアパスについても研究してみたい。

キャリアと言えば、一番研究してみたいと思っているのは、僕みたいな平均的なサラリーマンがどう生きたらいいのか、どうモノを考えればよいのかだ。僕は、まぁ、そこそこ仕事はうまくできる方だとは思う。けれども、あくまでそこそこ、B+クラス程度だ。とてもSクラスには及ばない。ある程度できるようになると、妥協してしまったり、あきらめてしまうのだ。突き抜けることができない。先天的なものなのか、努力によって克服できるものなのかは分からないが、このままB+で終わってしまって良いのか、という焦りは感じている。とても壮大な研究テーマなので答えが出そうには無いが、とりあえず試みてみたいと思う。多分、僕みたいな悩めるB+リーマンは世の中にゴマンといるだろう。僕の研究過程が何らかのプラスになれば幸いである。